北上市立鬼の館で開催された大乗神楽大会の様子です。
大乗神楽は修験(法印)により伝承されてきた神楽で、手次や踏み足、九字など修験の呪法を色濃く残しているのが特徴です。花巻の1団体のほか北上市内に集中して分布しており、この地域特有の芸能といえます。
そんな大乗神楽団体が一堂に会するこの公演、本来は朝から夕方まで行われるところ、今回はコロナ禍により縮小して半日の開催となりましたが、こうして間近で貴重な神楽を見ることができて良かったです。
以下、演目等の解説は主に当日配布パンフレットより。
神おろし・権現舞(道の上山伏神楽)
神おろしとは神楽の幕開けに際して奏楽で神を迎える儀式です。下舞で神への感謝を表すとともに場を清め、権現舞に入ります。
正足(宿大乗神楽)
忿怒相の荒面、頭には毛采をつけた姿で、刀と鉾を使って舞う一人舞です。四方を切り払って悪魔外道を浄化し、世の安寧を祈祷します。
今回の舞手さんは19歳で、1人で舞うのは初めてとのことでしたが、この早拍子の演目を堂々と披露して素晴らしかったです。
地讃(宿大乗神楽)
八幡大菩薩と天児屋根命の二神の舞で、弓矢の神徳をたたえ、天と地に矢を射て悪魔祓いをする祈祷舞です。つまり早池峰系神楽などでいう八幡舞にあたる演目ですね。
帝童(築舘大乗神楽)
若女の面と日輪の天冠をつけ、小袖を着て錫杖と扇を持って舞う一人舞。来世の孝を願って舞うとされ、女性の日常的な仕草を取り入れた大乗神楽唯一の女舞です。
七五三切(築舘大乗神楽)
天岩戸の前に張られた注連縄を切る場面を表した演目で、ザイを被った三人の舞手が三角の陣形をつくって剣を持って激しく舞います。刀くぐりなどアクロバティックな所作も見どころです。
これは他の山伏神楽でいう「勢剣」とか「三宝荒神」に似ていますね……こういう演目の共通点を比べると面白いです。
薬師(上宿和賀神楽)
病魔退散を祈祷する一人舞です。薬師如来は、小川や谷・峰から出る悪水を瑠璃色の瓶から出した薬で善き清水に戻すという験効があるといわれます。白の吽面をつけた姿で登場し、幡や扇、錫杖を持って舞います。
王の目(村崎野大乗神楽)
伊勢神宮を建てるときに行った加持の様子を表した演目とのことです。鳥兜を被り阿吽の面をつけた二人の舞手(伊弉諾尊・伊弉冉尊)が手で印を結んだり扇を持ったりして舞います。
三番叟(村崎野大乗神楽)
鳥兜を被り黒色の翁面をつけた舞手が扇や錫杖を持って飛び跳ねたり片足立ちになったり軽やかに舞う演目です。他の山伏神楽でもおなじみですが、独特でリズミカルなお囃子もあってか一段と軽快感が強くて、観ていて楽しかったです。
荒神(和賀大乗神楽)
三つ目の憤怒面(三つの目は、飢渇神・貪欲神・障礙神を表す)をつけ鳥兜を被った舞手が、背中に四本の幣束を挿して扇を持って舞います。榊舞とともに、法印の資格を持つ者だけが舞うことを許された演目です。
四本の幣束は四方に置いた大根に挿して祈祷し、これにより災いの侵入を防ぐ結界を張ります。この大根は最後に希望者へ配られたのですが、前に居たのに遠慮してしまい、滅多にいただけるものではないのでちょっと後悔しました……次の機会を待ちたいと思います。
神あげ・権現舞(長清水山伏神楽)
神あげは幕納めに際して行われる儀礼で、神おろしで迎えた神を神霊界にお送りします。
このご時世ですがありがたいことに最後の権現舞では頭噛み噛みもありました。それにしても長清水山伏神楽さんのお囃子はグルーヴィーで癖になります……