北上市煤孫の慶昌寺で行われた和賀大乗神楽さんの公演の様子です。
この時期の恒例行事でしたが、2020年の開催を目前にコロナ禍へ突入……2021・2022年はオンライン開催でしたので、一般観客を入れての公演は4年ぶりです。しかしその間には二人の法印が新たに得度するなど、決して歩みを止めず継承を続けてきたことが素晴らしいなと思います。
まずはお寺の門前で「大乗の下」という演目から。晴れて良かった。この舞は場を清めるとともに、これから公演が始まるのをお知らせする意味もあるのだそうです。ご近所の方がだんだんと集まってきました。
大乗の下が終わって、法螺貝を鳴らしながら本堂へ移動します。
本堂内陣。この立派な天蓋、龍の天蓋絵も迫力があります。
続いて神降ろしの儀。
いよいよ舞が始まりますが、その準備中、おととし得度した若き法印が場をつなぐことに。昔は湯田とか沢内のほうまで巡行していたという貴重なお話から、次第に彼自身の話になっていって、これがめちゃめちゃ面白かったです。県外の大学で学んで岩手に帰ってきたそうなんですが、卒論で神楽と自分の舞のことをテーマに書いたらナルシストかと言われた話とか(その卒論読みたすぎる)、今の勤め先の某弁当屋さんの宣伝とか……あっという間に場が温まりました。
王の目
「王の目」は伊勢神宮建設時の加持の様子を表したものだそうで、阿吽の面の二柱(伊弉諾尊・伊弉冉尊)による舞です。
今回舞うのは熟練の法印二人。これはとても貴重なことですが、実は2011年にこの組み合わせで舞うはずだったのが震災で中止となり、若き法印の願いにより12年経て実現したとのことです。胸熱。
つい先程まで笑いに包まれていた会場がたちまち厳粛な空気に。誰もが息を呑むのがわかりました。
鐘巻
続いて鐘巻です。鐘巻(道成寺)といえば能でも有名な演目ですが、もちろんこちらの鐘巻は山伏神楽でみられるほうのストーリーです。
女人禁制の寺への参詣が叶わず、思いを募らせた女性がやがて蛇神と化し……
そこへ僧侶が現れるのですが、なんだか道化じみていて普段観ている鐘巻とは違う雰囲気になってきました。
とぼけたことを言いながら「○○づくし」といった俗歌を歌い出したりします。蛇神そこにいるんですが……
しかし最後には無事蛇神を鎮めてめでたしめでたし。美しい舞で魅せたり滑稽な話で笑わせたり……感情を揺さぶられっぱなしでした。
稲荷舞
次は稲荷舞です。初めて観ましたが、大乗会などでもやらないレア演目なんだそうです。舞手は熟練の法印の方。
この狐面は数年前に新調したものだそうで(それまでは面がなかった?)、今回でまだ二度目の披露とのことです。威嚇するような力強い表情が印象的な面……貴重なものを見せていただきました。
稲荷大明神(の使い)が古刹の荘厳な天蓋の下で印を結びながら舞う、それだけでもう感動もの……
最後は面を外して舞い納めます。
帝童
「帝童」は来世の孝を願う女舞で、若女の面と日輪の天冠をつけ小袖を着て錫杖と扇を持って舞います。舞手は冒頭のトークで楽しませてくれた若き法印です。
女性の仕草を取り入れた美しい舞なのですが……今回は「追っかけ」つき。道化がやってきておぼつかない動きで舞を真似て見せます。
そして女が退場して「追っかけ」と囃子方との面白おかしい掛け合いに移ります。いやー笑いました。
龍殿
「龍殿」は神楽によって龍天とか両天といった呼称もありますが、阿吽の面をつけた二柱の舞です。大乗神楽においては貴船大明神・加茂大明神とされているそうです。
後半は直面になって激しく舞います。
そして二人での巧みな刀くぐり、見事です……神楽や剣舞ではおなじみですがこの曲芸的な舞はどこが発祥なんでしょうかね。いつも気になっています。
最後は一人だけ残って力強く刀を振り回します。一人舞になるのはたぶん龍殿では珍しいですね。
榊
「榊」は法印のみが舞うことを許された特別な演目です。軍荼利明王(本地は宝生如来)の舞とされ、手次や反閇、九字の印など修験の呪法が色濃い最高の祈祷舞です。
特に後半の面を外してからが圧巻……
激しく舞った後、お囃子が鳴り止んだ静寂の中で真言を唱え九字を切るのですが(あの雰囲気の中でシャッターを切ることはできなかったので写真はありません)、もうほんとに心が震えて涙が出そうになるほどかっこいいのです。これはぜひ一度生で観ていただきたいです……
権現
最後に「権現」。大乗神楽において権現舞は初めに神を迎え(神降ろし)、終わりに神をお送りする(神上げ)ために舞われますが、場を清めたり神に感謝したり、豊穣や病魔退散を願ったり……様々な意味を持った舞です。
というわけで、念願の慶昌寺公演は本当に素晴らしいひとときで、行って良かったなと思いました。でも大乗神楽って北上市内でもまだまだ知らない人が多い印象なので、もっと推されてほしいなあ……鬼剣舞だけじゃないんですよ。
ちなみに、10月下旬にはみちのく民俗村の古民家での公演を予定しているとのこと。こちらも楽しみですね!